本稿からはいよいよCO-PCの各論に入っていきたいと思います。まずは製造原価計画(PCP)です。
はじめに
■製品原価計画(CO-PC-PCP)の目的
これはズバリ「品目ごとの標準原価を算出すること」です。
標準原価とは製造業において製品を製造する際に目標とすべき原価のことを指します。標準原価と実際原価の差異を計算することで、製造現場における問題点を発見したり、作業効率の評価を行うことができます。また、実際原価が出揃うのを待っているとどうしても帳簿への記帳が遅れてしまいます。そのため、標準原価というある種のみなし原価を使って迅速に計算を行い、標準と実際の差額については後でまとめて処理して帳尻を合わせる、という運用をしている企業が多いです。
■SAP上で標準原価を保持している場所
品目マスタの会計ビューや原価計算ビューに標準原価は設定されます。
これを設定するためだけに相当な手間がかかるのですが・・・、本稿ではその手順を解説していきます。
■標準原価の用途
頑張って設定した標準原価は主に半製品や製品を払い出す際の単価として使用されます。

■SAPにおける標準原価計算(原価積上)のイメージ
BOM(部品表)と作業手順をベースに下位品目から上位品目へと原価が積み上がります。
(余談ですが、MRPはこの逆で、上位品目から下位品目へとBOMが展開されることで所要量が把握されます。)

カスタマイズ
まずは原価積上の準備として主要なカスタマイズの設定手順を見ていきます。
■カスタマイズ構成

■カスタマイズ手順
①原価計算バリアント(SPRO>管理会計>製品原価管理>製品原価計画>品目原価見積 (数量構成あり)>定義: 原価計算バリアント)
原価計算バリアントに対して、原価計算タイプ、評価バリアント、原価構成レイアウトなどを紐づけます。
設定値の例は以下の通りです。(主要な項目のみ掲載)
設定値例をZ始まりにしているものは標準をコピーして顧客要件に応じてカスタマイズすることが一般的です。
| 項目 | 設定値例 |
| 原価計算バリアント | ZPC1 |
| 原価計算タイプ | 01 |
| 評価バリアント | Z01 |
| 原価構成レイアウト | Z1 |
②原価計算タイプ(SPRO>管理会計>製品原価管理>製品原価計画>品目原価見積 (数量構成あり)>原価計算バリアント: コンポーネント>定義: 原価計算タイプ)
積上結果をどの項目に更新するかを設定します。例えば価格更新の項目に対して「標準原価」を設定すると、原価積上をした時に品目マスタの標準原価項目に金額が設定されます。
③評価バリアント(SPRO>管理会計>製品原価管理>製品原価計画>品目原価見積 (数量構成あり)>原価計算バリアント: コンポーネント>定義: 評価バリアント)
品目や活動の単価をどこから取得するか、原価計算表はどれを使用するか等を設定します。
<品目評価タブ>
原価積上で標準原価を計算する際、材料費をどこから取得してくるかを設定します。
・品目マスタの標準原価
・品目マスタの予定原価
・品目マスタの移動平均原価
・購買情報の正味価格・・・など
択一ではなく、優先順位をつけて取得できたものを採用する形式です。
<活動タイプ/プロセスタブ>
原価積上で標準原価を計算する際、活動価格をどこから取得してくるかを設定します。
Tr-cd:KP26で設定した活動単価の計画値など。
こちらも択一ではなく、優先順位をつけて取得できたものを採用する形式です。
<間接費タブ>
原価積上で標準原価を計算する際の原価計算表(間接費をどのようなロジックで計算するか)を設定します。
※原価計算表の設定は下記⑤で解説します。
④原価構成レイアウト(SPRO>管理会計>製品原価管理>製品原価計画>品目原価見積の基本設定>定義: 原価構成レイアウト)
下記例のように業務要件に沿って原価要素をグルーピングして、そのレイアウトで積上結果を照会できるようにします。
| 原価構成 | 原価構成名 | 開始原価要素 | 終了原価要素 |
| 10 | 材料費 | 4100000000 | 4199999999 |
| 20 | 加工費 | 4200000000 | 4299999999 |
⑤原価計算表(SPRO>管理会計>製品原価管理>製品原価計画>品目原価見積の基本設定>間接費>定義: 原価計算表)
「基準」に設定している原価要素の金額に対して、「間接費率」に設定している割合を乗じることで間接費を算出します。
例えば、「基準」に原材料費に該当する原価要素を設定して、「間接費率」に割合(〇%)を設定することで、原材料費に対して5%の仕損を見込んで標準原価に算入する、といった設定が可能になります。
マスタ
■製造原価計画で必要となる主要なマスタ
カスタマイズの準備が整ったら、次はマスタ設定を見ていきたいと思います。
製造原価計画で必要となる主要なマスタは以下の7つです。
| No. | モジュール | マスタ | 内容 |
| ① | MM | 品目 | 原材料、半製品、製品など個々の品目情報 |
| ② | PP | BOM(部品表) | 製品を構成する品目 |
| ③ | CO | 活動タイプ | 原価の発生する作業の数量単位や活動消費時の原価要素 |
| ④ | CO | 活動単価 | 活動単位あたりの金額 |
| ⑤ | PP | 作業区 | 製造工程における作業の詳細 |
| ⑥ | PP | 作業手順 | 生産活動の作業順序や標準時間 |
| ⑦ | PP | 製造バージョン | BOMと作業手順の組合せ |
■マスタ構成のイメージ
上記マスタの関連性を図解すると以下の通りです。

■マスタ設定手順
①品目マスタ(Tr-cd:MM01)
製品や構成品目(製品を構成する原材料や部品など)の品目コードを登録します。
構成品目の原価管理区分にはV(移動平均原価)を設定して、入庫で更新された実績単価を積上に使用するのが一般的です。
製品や半製品の原価管理区分にはS(標準原価)を設定して、本稿で解説する手順に従って標準原価を設定します。
②BOMマスタ(Tr-cd:CS01)
製品や半製品のBOMを構成する品目コードと標準所要量を入力します。
同一品目に対して複数のBOM(代替部品を使用する構成など)を定義する場合は代替BOMで管理します。
③活動タイプ(Tr-cd:KL01)
作業の数量単位、活動消費時に計上される二次原価要素、各種カテゴリなどを設定します。
機械による組立作業や直接工の直接作業時間など。
④活動単価設定(Tr-cd:KP26)
会計期間×原価センタ×活動タイプの組み合わせごとに活動単価(1時間あたり〇千円などの金額)を設定します。
※活動単価はTr-cd:KSPIより自動で算出することも可能です。
⑤作業区(Tr-cd:CR01)
作業区に紐づく原価センタや当該作業区で発生する作業とその活動数量の計算式を設定します。
(標準値キーをもとに最大6個まで設定可能。)
⑥作業手順(Tr-cd:CA01)
作業の順序に従って、上記⑤で設定した作業区を割り当てます。
作業区で定義した作業が割り当たるので、そこに標準所要時間を設定します。
⑦製造バージョン(Tr-cd:C223)
BOMと作業手順の組み合わせを設定します。
例えば、同一BOMでもロットサイズが小さい場合は手作業による作業手順、ロットサイズが大きい場合は工場のラインに乗せる作業手順…などのように柔軟に組み合わせを定義できます。
見積原価積上実行
■原価積上方法
カスタマイズとマスタの準備ができたら、最後に原価積上の実行です。
原価積上には以下3つの積上方法があります。本稿ではCK11Nを例に積上を実行していきます。
| Tr-cd | 機能名 | 概要 | 使用例 |
| KKPAN | 品目原価見積(数量構成なし)登録 | BOM・作業手順を参照せず、マニュアルで原価要素に対して計画値を入力することで原価を積み上げる。 | 製品仕様が明確でない時期での原価見積 |
| CK11N | 品目原価見積(数量構成あり)登録 | 特定の製品を指定し、BOM・作業手順を参照して、自動で原価を積み上げる。 | 期中の新製品の原価見積 |
| CK40N | 原価積上実行編集 | 複数の製品に対して、BOM・作業手順を参照して、自動で原価を積み上げる。 | 予算編成期における各品目の次期標準原価計画 |
■処理の流れ
大まかな処理の流れは以下の3ステップに分かれています。
| No. | Tr-cd | 処理内容 | 備考 |
| ① | CK11N | 品目原価見積登録 | この時点では品目マスタの更新はなし。 |
| ② | CK24 | 標準原価のマーク | 品目マスタの次期標準原価が更新される。 |
| ③ | CK24 | 標準原価のリリース | 品目マスタの当期標準原価が更新される。 |
■原価積上の手順
①品目原価見積登録(Tr-cd:CK11N)
以下の要領で各項目に値を設定します。
| 項目 | 設定内容 |
| 品目 | 原価積上対象の製品や半製品の品目コード |
| プラント | 品目コードの属するプラント |
| 原価計算バリアント | 上記のカスタマイズで定義した原価計算バリアントを指定 |
| 原価計算開始日/終了日 | 積上後の標準原価を反映する基準日 |
| 数量構成日付 | マスタ読み込みの基準日 |
| 評価日 | マスタ読み込みの基準日 |
上記の設定後、原価タブに下記のような形で積上結果の明細が表示されるので、内容を確認したら保存ボタンを押下します。
(※この時点ではまだ品目マスタの標準原価には何も反映されません。)
| 明細カテゴリ | 内容 |
| M(材料費) | 品目マスタの予定原価(標準原価)×BOMの数量 |
| E(活動費) | 活動タイプと原価センタの活動単価×作業手順の標準時間 |
| G(間接費) | 原価計算表で定義したロジックにもとづいて算出された金額 |
②標準原価のマーク(Tr-cd:CK24)
マークを実施するには事前に当該画面にて「マーク許可」という操作が必要になります。
対象の会社や会計期間を選択してボタンを押下するだけなので、開発機などでSAP_ALL権限のついたユーザで実施すると何の意味があるんだろうという感じだと思いますが、実務上は相応の権限が必要となるため内部統制上の制御として設けられているのだと思います。
マーク許可が完了したら、同画面にて対象の会社コード/プラント/品目コードを指定してマークを実行します。
正常に終了すると品目マスタの原価計算2ビューの将来予定価格に原価が反映されます。
③標準原価のリリース(Tr-cd:CK24)
リリースを実施するには品目会計期間がオープンしている必要があるので、オープンしていない場合はTr-cd:MMPVよりリリース対象期間まで締め処理を行ってください。
期間オープンとマークが完了したら、CK24の画面上部にあるリリースボタンを押下して、リリースの実行画面に切り替えます。
そしてマークの時と同じ要領で、対象の会社コード/プラント/品目コードを指定してリリースを実行します。
正常に終了すると品目マスタの原価計算2ビューの現在標準原価に原価が反映されます。
なお、前回標準原価との差があって、なおかつその品目に在庫が存在する場合は標準原価改訂差の仕訳が発生します。
最後に
本稿では標準原価積上の準備と実行の手順について見てきました。
結果的には品目マスタの標準原価が計算されるだけですが、そのためにかなりの手数がかかるということがお分かりいただけたかと思います。(このあたりがCO-PCが取っつきにくい一因だと思います。)
次の記事ではコストオブジェクトに実際原価をプールしていって、月末に標準原価と実際原価の差額を計上する手順を見ていきます。

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